先天性心疾患(心内膜床欠損)に立ち向かった小さな命

誕生するまで由宇斗、誕生心臓病発覚、最初の入院思いがけない言葉退院後の幸せな生活
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−とうちゃんが綴った−由宇斗物語
第2章 幸せを運んでくれた45日間

最後のがんばり

26日、いよいよ運命の手術の日となった。
私はあすとを保育園に送ってすぐに車を飛ばして病院に入った。
9時半には着けたのだが、由宇斗は予定通り8時半に移動してしまったので顔をみることはできなかった。
顔をみて「がんばれ」って声をかけられなかったのがちょっと残念だったが、○子から「行く前にいっぱい笑っていったよ」という言葉を聞いてなんとなく心が落ち着いた。
手術後はICUに入るため、○子はこの小児科の部屋をでる準備をしていた。しばらくすると○子の両親とその後私の姉がきてくれた。
しばらくこの病棟で待ったあと、ICUの家族控え室に移動した。多分手術が始まったということだろう。
控え室でも何もすることはない、初めのうちはいろいろと話もしていたが、さすがに5〜6時間ともなるとどうしようもない。
午後からは昼寝もしていたし、病院近辺の散歩もしていた。
手術自体で何かあるとは、ほとんど考えてもいなかった。
なかなか進まない時計を何度見たことか、4時半頃ついに面談室より医師が現れた。
手術についての話をするとのこと。ここで初めてちょっと緊張して部屋に入っていった。
そこでは一昨日の説明の通り手術は無事終了したとのことだった。そして○子と二人由宇斗に会いにICUの病室に入った。
そこにはちっちゃな体にいくつものチューブをさして眠っている由宇斗がいた。
とても痛々しくて胸が痛んだが、こんなに長い手術も乗り越えたんだと思うと由宇斗のがんばりに思わず涙が出てしまった。
目が覚めたときに「由宇斗はとうちゃんの誇りだよ」と言ってあげようと思っていた。
そして最後に「よくがんばったな」と声をかけて頭を撫でてやった。
控え室に戻って、姉と○子の両親にその報告をした。みんなとってもよろこんでくれた。
今夜はこの控え室で泊まりとなるので、ここで見送って私一人残った。
あとはただ明日の朝まで寝てればいいと思っていた。朝、由宇斗の夜中の様子を聞いて会社に行こうと考えていた。
そんな平和な気分を根底から覆す事件が起きた。
午後7時半頃、急に小児科の担当医が控え室に入ってきて由宇斗の血圧・心拍数とも急に下がり心臓マッサージでも戻らないため、胸を開いて補助循環装置を付けたいので了解を取りたいとのことだった。
最初はとても内容を理解できなかった。「手術は成功したと言っていたのにいったい何を言っているのか?」と。
ただこれをしないと危険であるとのことで、すぐに了承して処置をお願いした。
それから1時間半くらいしたであろうか、またその医師に呼ばれて、循環装置はうまく作動し始めたことと、これまでの状況の説明を受けた。
結論的には現段階では原因はわかっていないということだった。
そしてとにかく今はその原因を探りながら、心臓の機能の回復するのをまってこの装置を外すのを待つとのことだった。
『原因不明』それが私の心を締め付けた。「由宇斗の心臓に何が起こったのか、よくなってくれるのか?」それを思うととても寝る気分ではなかった。
最初○子に連絡するかどうか迷ったが、かなり深刻なことになるかもしれないため、電話で状況は話した。
当初は翌日のんびりと病院に来てくれればいいと言っていたが、なるべく早く来るように頼んだ。
後はまた医師がいつ入ってきてもすぐに説明が聞けるように、控え室の和室の一番手前で横になっていたが、結局朝まで何もなかった。
何もないということは通常はいいことなのだが、今回は原因がわかったら教えてくれることになっている、つまりわからないということである。
眠れない夜にいろんなことを考えた。
人間不安なときは悪いことばかり考えてしまう。私はとにかく明るい材料を探した。
「僕が安心しきっていたので、お茶目な由宇斗はちょっと驚かせようとしてるだけだよ」「次の手術では補助循環やら輸血やらとにかく大変になるので、由宇斗はその予行演習をやっているんだよ」とか。

27日、手術直後の話しでは8時頃に夜の状態を聞くことになっていたが、7時前に医師に呼ばれた。
そこでまた新しいことを聞かされた。
1つは補助循環の方は順調だが、手術後の出血が多いので血小板も輸血をしたいということ。もう1つは出血の原因を調べるために昨日の手術個所を再度確認して止血処置等を行いたいということであった。
当然リスクもある。手術は横から行ったが、補助循環装置のために現在は正面の胸を開いている。そこから無理な格好で覗き込む形になるためである。
しかし出血は止めなければならない。だとすればこれらに同意するしかなかった。
血小板が病院に届き次第その処置を始めることとなった。
そのとき由宇斗に会った。昨日よりさらに傷やら大きな装置がついていて、見れば見るほどかわいそうで、涙をこらえることはできなかった。
でもこの段階では、きっと乗り越えてくれると信じていた。
いや信じるしかなかった。悪い想像がどんどんと頭の中に湧いてくるが、そのたびに振り払った。
10時過ぎに○子が来た。私はこれまでの経緯と状況を話した。○子も不安そうである。
「まずは今の処置の結果を待たないと」と言って、二人で座って待ちつづけた。
昼頃に医師が出てきた。そして話を聞いた。
手術個所から出血している訳ではなく、いろんな傷口全般からのようなので電気メスや止血糊等で処置したとのこと。
「まずはこれで出血さえとまれば」と祈った。
出血があると輸血を続けなればならない。しかし補助循環装置をつけているので、血小板が壊れどうしても出血しすやくなる。するとまた輸血となり悪循環から抜け出せない。
ここでも由宇斗を信じるしかなかった。
今度は○子と二人で由宇斗に面会した。体のあちこちに処置した跡の血がついている。何度見ても悲しくなってくる。
今回は二人で由宇斗の手をしっかりと何度も握ってやり、「がんばるんだ、みんな元気になるのを待っているぞ、とうちゃんは信じているぞ」と祈るのであった。
今日は金曜日のため、あすとを病院に近い○子の実家に連れてくるために私は一度帰った。
そのついでにあすとと二人で先祖の墓にもお参りして実家へと移動した。
あすとを降ろしたあと私は再び病院へ戻った。
○子に状況を聞いたが、特にかわったこともなく、とりあえず由宇斗の面会に行った。
出血の方は多少減ってきたのことで、ちょっとはほっとした。
ただおしっこの出が悪くなった場合には、透析をしなければならない。幼児の場合は体への負担の少ない腹膜透析という方法もあるので、もしもの場合にはそれを行うこととした。
また今日も泊まって何かに備えた方がいいかということについては、この先補助循環を外すときにリスクが高くなるので今日のところは家に戻っても問題ないとのことだった。
あすとのこともあるので、今日は○子の実家で久しぶりに3人で寝ることにした。
8時頃帰る前に医師に様子を聞いたところ、やはり透析を行った方がいい状態となったため処置を始めることになった。
これでへその下にもメスを入れることになる。
「いったいどれだけ由宇斗の体を傷つければいいんだ」やり場のない怒りと悲しみで苦しくて仕方なかった。
この処置が終わったあと○子と二人で再度由宇斗の手を握り、そして由宇斗のために作ったお守りを置いて病院を後にした。

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