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8/3〜11 3日、予定通り退院だ。 新生児用の服を持って由宇斗を迎えに行った。 朝ミルクを飲んだのが6時というので、退院手続き後すぐにミルクをあげた。80cc全部飲んでくれた。 由宇斗を連れて車に乗り込む。由宇斗にとって生まれて初めてみる外だ。 生まれて初めて乗る車だ。いつもはミルク後すやすや寝るのに、今日はいつもと違うと気付いたのかあたりをきょろきょろ見回している。もう目が見えるのだろうか? さあ、出発だ。由宇斗は馴れないベビーシートにむずかり大声で泣き出す。しかし体がつらいのだろうか、泣きつかれて寝てしまった。 かわいそうに、泣くことも満足にできないなんて。 今日は、専門医がいる日赤に転院するため八事に向かった。 診察まで由宇斗を抱きながら待った。 さすがに座っていても、長時間抱いていると手が疲れてくる。でも抱いていられることは幸せなことだ。○明さんと交代で由宇斗を抱いた。 診察室に入り、由宇斗がエコーを掛けられる。 慣れているのか、由宇斗は泣きもしない。 診察後先生の説明を聞いた。名鉄病院で説明を受けた時は、由宇斗の心臓に穴があいているとのことだったが、日赤の先生曰くは、穴があいていると言うよりは、弁自体がほとんど無い状態なのだという。かなり重症なのだ。今の時点では手術ができるかどうか、なんともいえないとのことであった。 私はショックを受けた。手術すれば治ると思っていたのだ。その手術自体どうなるかわからなければ、由宇斗はどうなるのだ? また私は涙が出てきた。 私が泣いているのを見て、先生は「今すぐどうなるというわけじゃないから、そう悲観しないように。」と言った。 「とりあえず、心臓の手術の前に肺動脈の手術をしましょう。」先生はこう続けた。 「それで経過を見てから、心臓の手術になるでしょう。」 肺動脈の手術をすれば楽になるということなのか?先生の説明が私にはいまいち理解できなかった。ただ近いうちに手術はしなければならないことだけはわかった。 手術をすれば治るのだ、と楽観的にかんがえていた私は、今回の診察の結果を聞いて、暗い気持ちになった。ほんとうに将来由宇斗は治るのだろうか? それでもしばらくは通院でいいということになったのは、喜ばしいことだった。 病院にいる間は暗い気持ちだったが、外に出ると、これから由宇斗と暮らせるのだという喜びの気持ちの方が勝ってきた。 悲観的に考えても仕方が無い。今は先生を信じるしかない。そう思った。 実家に着くと、由宇斗に早速母乳とミルクをあげた。 あいかわらずミルクを飲むと寝てしまって、今回は40ccしか飲んでいない。 先生は、「だんだんミルクが飲めなくなってくる。」と言っていたので少々不安になる。 それに今日は朝から何度もうんちをしている。大丈夫だろうか? ○明さんは由宇斗が寝ている間に、あすとのお迎えにふたたび清洲に戻った。 あすとが戻ってくると、由宇斗の姿に大喜びだ。頭をなでたりしている。 あすとがとんだりはねたりするので、由宇斗はなかなか眠れない。 でも泣くわけでもないので、みんなで由宇斗の大きな目を眺めて喜ぶ。今までなかなか起きた時の顔が見られなかったのだ。これからは何度でも由宇斗の大きな目が見られるのだ。ほんとうにうれしい。 ぐずりだしたので母乳をあげる。これからは1日に何度でも母乳をあげられるのだ。とてもうれしい。ただ、母乳だと、吸うのに時間がかかって疲れて寝てしまう。そうすると、ミルクの量が減り、1日の哺乳量が少なくなる。そうなると体重が増えない。でもミルクにたよってしまうと母乳を吸ってくれないので、私の乳は余計出なくなってしまう。 心臓病を患っていると、少々の感染病でも普通の子よりも重症になり危険な状態になる。 そのため少しでも母乳で免疫をつけてもらいたい。しかし母乳をいっぱい出すには、1日に何度もおっぱいを吸ってもらわなければならない。でもおっぱいだけでは必要量まで至らない。ジレンマに陥ってしまう。 私は退院してから数日はミルクのあげ方に試行錯誤していた。そうこうするうちに、由宇斗の哺乳量はどんどん減っていってしまったのだ。 私はこのときのことを今でも悔やんでいる。 先のことより、今由宇斗に必要だったのは、たとえミルクだけでも必要量飲んで体重を少しでも増やすことだったのだ。そうすればこんなに早くに手術をする必要もなく、もしかしたら今もまだ由宇斗は生きていたかもしれない。 1日目の夜は何度か由宇斗は目を覚ました。あすとの時は夜中の授乳はつらく感じていたが、由宇斗の時はまるで苦にならなかった。寝不足になろうとも、由宇斗のそばにいられるのがうれしかった。由宇斗の世話をできるのがうれしかった。ぐずってなかなか寝付いてくれなくても、抱いていられるのがうれしかった。どんなことでも由宇斗の存在そのものが、私には幸せだったのだ。 実際、退院後、次に入院するまでの2週間あまり、私だけではなく家族みんなが本当に幸せだった。由宇斗が泣く。由宇斗があくびをする。由宇斗がおならをする。由宇斗が笑う。由宇斗が見つめる。由宇斗が手足をばたばたする。全てが喜びだった。 だれもがこんな日が長く続くと思っていた。 こんなに由宇斗は元気なのだ。まさか1ヶ月もしない間に由宇斗がいなくなるなど誰が想像しただろう。 このときの2週間は、先が短いとわかっていた由宇斗が不思議な力をつかって、少しでもみんなと一緒にいようと退院してくれたのだろうか? それとも神様が残されるかわいそうな私達に、せめてものプレゼントを与えてくれたのだろうか? そう思えるほど幸せな2週間だった。 退院後2日目の4日、由宇斗はこの日あたりからミルクの飲みが悪くなってきた。 1度に40cc程しか飲んでくれないのだ。それだけ飲むと寝てしまう。足の裏を押したり、ほっぺたをつんつんしたり、何をしても起きない。 しかたなくあきらめてミルクを置くのだが、飲みが少ないせいか、すぐに起きてしまう。 ならばと再びミルクをあげても、あまり飲まない。 しかも目を覚ますたびうんちをしている。しかもそのうんちがだんだんみずっぽくなってきた。これは下痢便だ。お腹が痛くて飲めないのだろうか? 心配になってくる。日赤の先生に電話して聞いてみようかとも考えたが、馴れない環境に驚いている可能性もある。もう1日待ってみよう。 昼頃ようやくまとまって寝てくれた。ぐっすり眠った後は元気なのか、ミルクの飲みもいい。 夕方はあすとが帰ってきて騒ぐので、由宇斗はなかなか眠れない。 あすとがいると、私が由宇斗を抱っこしたりミルクをあげるていると、あすとはやきもちをやいて大騒動になるので、あすとがいる時間は由宇斗の世話はおばあちゃんがやってくれた。 やきもちをやきながらも、あすとは由宇斗の世話をしたがる。 ミルクを飲ませようとしたり、頭をなでてくれたり。自慢のおもちゃを見せたり。 不思議とあすとの声には由宇斗は反応する。 泣いていてもあすとが声をかけたり、頭をなでると不思議と泣き止む。 あすとの見せるおもちゃも一生懸命見つめている。 やっぱり子供は子供同士、言葉がなくても通じ合うものがあるのだろうか? 夕方眠れないせいだろうか、夜ミルクを飲むとそのままぐっすり寝てしまった。 次に目を覚ましたのは夜中だった。 しかし今日はあいかわらずミルクの飲みが悪い。 おかげで2時間もたたない内に由宇斗の泣き声に起こされる。 さすがに2日目はちょっと眠い。 しかし、由宇斗の泣き声は以外にたくましい。病院にいる間、あまり泣き顔自体見なかったが、泣いても、ふにふにとねこの鳴くような声だった。心臓が苦しいからなのだろうかと思っていたが、家に帰ってきてからは元気な泣き声をあげて泣いている。 そんなに大きな声で泣いて大丈夫だろうかと心配の反面、たくましさと元気さに喜びを感じる。こんなに元気に泣けるんだ。先生が言うほど、由宇斗の心臓は悪くない。そう楽観的な考えが頭をよぎる。 ミルクを作る間、どうしても由宇斗には待っててもらわないといけないので、泣かせっぱなしになるので、心配になっておばあちゃんが何度も起きては由宇斗を抱っこしてくれる。 今となってはおばあちゃんにとっても、これはいい思い出となってくれただろう。 退院3日目はミルクの飲みは相変わらず悪いものの、下痢は収まった。 とりあえずほっとする。 でもミルクの飲みが少ないのは心配だ。もっと飲んで欲しい。飲むと寝てしまうので、「もっと飲んでよー。」とつい愚痴をこぼしてしまう。 それを聞いたあすとが「由宇斗君はまだ小さいんだから、怒ったらかんよ」と私をしかる。 やきもちをやきながらも由宇斗を守ろうとするあすとは立派なお兄ちゃんだ。 「こんなやさしいお兄ちゃんがいて由宇斗は幸せだね。」わたしは由宇斗にささやく。 こんな風に幸せな時間は瞬く間にすぎていってしまった。 この2週間の間に生き急ぐように由宇斗は目覚しい発達を私達に見せてくれた。 退院直後は、なんとなく声が聞こえるかな?目が見えるかな?という感じだったが、いつのまにか、顔をむけている反対方向から「由宇斗」と呼ぶと、一生懸命声のする方に向きを替えようとする。そのしぐさが本当にかわいらしい。 でも一番うれしかったのは笑ったことだ。 今までにも筋肉が緩んだように、にへらあ、と笑うことはよくあった。 特にミルクを飲んで眠りに入る時そんな顔しながら眠りに落ちる。本当に気持ちよさそうだ。 ある夜中の授乳中のことだ。ミルクをたくさん飲んでくれたので、「今日はえらいねえ」と頭やほっぺをなでてあげていた。すると、由宇斗は「へっ」と声を出して、目を細め口を開けて笑ったのだ。ほほえみじゃない。本当の笑いだ。 私はあまりのかわいらしさに感動してしまった。みんなに報告したかったのだが、夜中なのでみな寝ている。 もう一回笑ってくれないかなあと、つんつん、なでなでを繰り返すが、もう笑ってはくれなかった。 そして、もうひとつ嬉しかったのは、由宇斗が私のことを母として認めてくれたことだ。 ミルクを作っている最中や、あすとがいるときは、おばあちゃんが由宇斗をよく抱っこしてくれた。おばあちゃんの抱っこでは泣き止まない時でも私が抱っこすると、とたんに泣き止む。この瞬間が本当に幸せを感じる。お母さんだと安心してくれるんだろうか。 愛おしさが倍増する。ずっとずっと抱っこしていてあげたくなる。 次へ |
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